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CTタイルって何?

土と釉薬と炎・・・伝統のやきものには素朴なイメージがありますが、とくに、釉薬や窯業原料、薬品の進歩は顕著で、化学的です。

最近話題の環境問題対策に、大気中の汚染を減らす化学の知恵を応用したやきものに注目してみました。

 美濃焼では、「CTタイル」が環境適応機能型の製品です。

 汚れがつきにくい、落ちやすいので手入れが楽。そのうえ、消臭、抗菌の他、タイル表面に接触する大気中のホルムアルデビドや有害物質の分解などに効果があるようです。

いったい、どんな仕組みなんでしょう?

この技術は、「触媒」の性質を利用したもの。触媒とは、それ自体は変化しないけれども、周辺の物質の化学反応を促進させるものだそうです。で、触媒となる物質を塗布、あるいは混入することで、タイルに汚れを分解浄化する機能を持たせたわけです。

現在応用されている「触媒」には、「光触媒」と「電荷触媒」の2つの方法があります。

美濃焼CTタイルは、このうち「電荷触媒」の性質を利用したものです。正確には「電荷移動型酸化還元触媒=Charge Transfer」といいます。(略してCT触媒)

CT触媒は、温度変化があると、周りの物質のなかのプラス電子、マイナス電子が引き合い電子構造を変える性質。
これを利用して・・・・。例えば、車の排ガスなどの窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの塩基性の汚れを酸化作用で、炭化水素や二酸化炭素など酸化の汚れを還元作用で、 という具合にプラスとマイナスの電子が引き合う性質で電子構造をかえ、無害な物質に分解するそうです。

そこで、CT触媒を釉薬に混入して、焼成し、CTタイルに応用したのです。化学反応を促進させるエネルギーは温度変化であるため、光がないところでも利用できる利点があります。
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CTタイル(下)と一般のタイルに墨汁液を付けてみました。CTタイルの墨汁液ははじけ、汚れが付きにくいのがわかります。

笠原町と開発者の市村昭二理学博士の共同研究で2004年には、発明大賞を受賞しています。(協同組合KSG・美濃焼CTタイル

一方「光触媒」は、酸化チタンを超薄い皮膜として製品に塗布し、700℃位で焼き付けるコーティング方法です。

酸化チタンには、紫外線(光)があたると、活性酸素を発生させ、水になじむ親水性と、表面についた有機物質の分解という2つの作用を促進する作用があり、これを応用したもの。

この技術は、TOTOの「ハイドロテクトコート」として開発された特許技術です。ハイドロテクトはガラスや車などの汚れ防止にも応用されています。

建造物自体が、大気浄化の作用をもてるようになるなら、まさに未来型タイルです。(Muto)

なぜ、早いの?

補修用タイルで、「なぜ、そんなに早くできるんですか?」とお問い合わせ頂きます。
補修用タイルは、過去に建築されたビルやマンションなどのタイル部分の修繕用特注タイルです。建築当時と同じタイルは殆ど作られていませんので、現場のタイルを再現することになります。新品でありながら年月の経過の変化までも再現することがあります。
大方の場合、出荷まで通常3ヶ月、あるいは近似色をさがして妥協するなど時間がかかっていました。ところが、加納では最初の見本による色あわせまで、これまでの平均で7.5日。その後2~3回の見本焼きを提示、OKを頂いてから、本生産、出荷まで3週間から1ヶ月ほどです。
もちろん、複雑な色やテクスチャーなど物によって違いはありますが、それにしても他社より早いので、「なぜ?」という疑問を抱かれるのだと思います。
ひとことで言ってしまうと、専任者を配置したことと、弊社がこれまでも現場に合わせた特注品を多く作ってきた長年のノウハウをもっていることです。
補修用タイルの専任者はお客様から届いたタイル破片を、釉薬、工場ラインへと職人さんに渡し、スケジュールを把握します。マネジメントのような感じをイメージしてください。
職人さんはこれまでの経験から釉薬の見当をつけ、釉薬屋さんに注文します。ここで、釉薬選びに明確な指示ができるのも、早道です。
焼成はトンネル窯で、毎日製品を流して焼成していますから、その中に入れ込んでいきます。窯入れしたテスト見本は、24時間後に出ます。(詳しい工程はブログ「やきもの物語」をご覧ください)
このようにテストを繰り返し、お客さんと打ち合わせしています。お客さんに説明する際に、色の感覚をお伝えするのは難しい時があります。色は言葉ではなかなか表せません。やきものの色は焼成によって中からにじみ出る発色なので、絵の具のように何色と何色を合わせてというような一色で言い表せるものでもありません。元のタイル破片と並べて、誰がみても差がないところまで、見本を作っています。詳しくは補修タイルの製作例にてご覧ください。 (Muto)

釉薬と装飾ーその2

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タイル工場の敷地内で日に幾度となく見る風景です。
作っているのは外壁タイルなので、外光での色やテクスチャーの具合を試作タイルで見ています。求める色合いやテクスチャーをだすためには、このときの釉薬屋さんとの打ち合わせが重要です。
とくに、補修タイルで破片からの再現は、使っているであろう原料を経験から予測をたてます。どの傾向の基礎釉(釉薬の話その1参照)に、どの顔料をどれくらい、どんな金属を添付したら、元の破片や作りたい理想に近づくか?使う原料の方向性を釉薬屋さんに提案してみます。テストピースの試験を繰り返して、最終的に釉薬を決めます。 とても手間のかかる仕事ですが、経験による見当が早道でしょう。
志野の人間国宝・荒川豊蔵さんは岐阜県・可児の山奥で桃山時代の陶片を発見し、そこから試行錯誤のうえに「志野」を再現しました。やきものに携わる人は長年の経験から、原材料の見当をつけます。先人の残した一つの陶片から、再現する仕事はロマンを感じます。
再現した釉薬にさらに新しい経験が加えられ、革新的に伝統の技術が伝わっていくんですね。
補修用タイルの場合、時を経過した退色まで、現存する周りと合うように再現します。 しかし、こうして決まった釉薬をかければ、思い通りのタイルが量産できるわけではありません。2~3層に掛けるに、どこにどんなふうに釉薬をかければいいのか?
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開発課長がコンプレッサーによる手吹きで釉薬をかけています。真上から釉薬がかかるように姿勢はまっすぐ、少しずつ移動します。量産ラインの機械を想定してるかのようです。分量を計算するため伝わる職人さんの工夫も見られます。
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加納の現在80歳になる会長は現役の職人さんでもあります。永い職人としての経験と技術の工夫は伝わっています。
建物にも時代に沿った流行があります。過去の建物で多いのは、壁面を微妙なグラデーションで変化を持たせる「3色ミックス貼り」。これを再現するにはテスト用に、1色に最低2色の試作を作ったとしても、6種類の釉薬が必要になります。10現場あれば、日に60色のテストです。
微妙な釉薬の差はわずか、0.0□%の微量な添加顔料や金属で変わるので、的確な原料の指示が完成までの早道になります。
また、釉薬の色だけではなく、表面状の凸凹の形態で見た目の発色は変わります。軽石のような表面のショット面状というのがありますが、鉄粉などの斑点が沈み込んでしまうこともあり、加減が難しいものです。
いろいろなケースに対処するのは職人さんの経験あってのことでしょう。こうして理想の色合いになるまで、試験を繰り返し、釉薬の分量を計算し、量産のラインに移すことができるのです。
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機械による生産ラインの釉掛け  

      (Muto)