やきもの物語

釉薬と装飾の話-その1

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写真のタイルのひとつ一つの釉薬と焼成条件は、皆同じものです。施釉するとき数種の釉薬を2~3層にかけていますが、その濃度と量をかえたものです。次の3つのピースも同じひとつの釉薬で変化をつけたもの。
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こんなに素材感が違ってくるんです。 釉薬の工夫は焼成と同様、やきものの醍醐味です。
オブジェ系の陶芸展に行くと、とても不思議な造形物に出くわします。
例えば、美濃にも国際フェスティバルがあります。 まずは、そのインパクトに、作者は何を表現ているのだろうと思われるかもしれません。
現代美術や彫刻と陶芸の境界ラインはどんどん曖昧になって、交錯しています。しかし、表現に「やきもの」を拠り所とする作者は、素材が陶である必要性と視点がこだわりとなって作品に現れています。
やきものの特性である「土の可能性」、「釉薬の美しさ」、「焼きの変化」のなかで、作者が一番自分の美意識に合点する部分を抽出し、解釈し、ときにはデフォルメして表現しています。素材の特性の限界ぎりぎりのところを可能にするカタチに、「どうやって焼いたんだろう?」と技術に感心します。
翻って、やきもの芸術と産業は切っても切り離せないものだと感じるのです。伝統の技術に、斬新な感覚が加わり、新しい表現技術へと、発展しています。技術と表現の変遷は、陶芸芸術にも、日常で目にする食器にも、家の中の水回りのタイルにも、大きなビルの壁面にも生かされて、同じ共通項があります。
タイル工場のなかで、現場の職人さんと話しているとそのことを感じるのです。
タイルは量産品ですから、一般的に「手作り」のイメージから遠いかもしれません。しかし、商品開発や、建築現場に合わせて作る特注商品、補修の為に過去のタイルを再現するなどの場面では、ほぼ一品生産です。
違いは、量産ラインにかける工夫と、工業製品としての厳しい規格に合わせること、建築基準法を考えなければなりません。大変でしょ~!?
タイルは造形的にはフラットなシンプルなものです。またJIS規格では吸水率や強度が規定であるので、おのずと土の原料も硬質な磁器質に決まってきます。 それゆえ、面状と表面のテクスチャーが表現のすべてになってきます。
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写真は加納の開発課長が試行錯誤して作り上げたタイル面状です。釘でスクラッチしたり、所々に斑点や釉薬のかき分けしたり。その面状は陶彫オブジェの表面のようです。
施釉の工夫は重要です。
釉薬は基本的には三つの性質をもつ成分の原料から成り立っています。
溶かして発色する成分(アルカリ原料)、釉薬の骨格となる成分(酸性原料)、素地に安定的に溶着させる成分(中性原料)です。ちょっとややこしそうですが、すごく乱暴な言い方すると、元は土や石の鉱物と木の灰の化学的性質です。 鉱物や灰の中の化学的成分が火によって化学反応を起こしている・・・なんていうとかっこいい?自然からの原料なので素朴なイメージがやきものにはあるけれど、実は非常に化学的です。
この基本になる釉薬を「基礎釉」といいます。基礎釉に鉄やマンガン、銅、コバルト、クロムなど金属や顔料を微量添加することで、色が変わります。
例えば、美濃の伝統的な釉薬でいえば・・・・。「黄瀬戸」は、長石などの石類と粘土成分と灰からなる基礎釉にわずかな鉄を加え、酸素をふんだんに取り入れる酸化焼成で焼くのです。微量な鉄は黄色に発色します。しかしこれを、酸素を遮断した還元焼成にすると発色は青磁色のようにやや青緑っぽくなります。また、基礎釉を作るときに、性質の異なる鉱物へと種類や量を換えると光沢やマット感、ガサガサな表面と変化させることができます。
そうやっていくと、釉薬には焼成との組み合わせで無限のテクスチャーの広がりがありますが。土と合うのか?釉の剥がれなど「のげる」ことはないか?溶けてダラダラにならないか?あとは職人さんが長年にわたって、得た経験の統計から生まれます。
さて、話をタイル装飾に戻します。 タイルは表面に起伏の形状や斑点などで複雑な模様をつけて装飾とします。 タイルの釉薬には「基礎釉」に顔料を添加することが多いのは、色が安定しやすいからです。
特徴的な基礎釉に通称「ドロ釉」と呼んでるものがあります。エンコーべともいいます。聞き慣れない言葉ですね。どうやら、語源はフランス後で、器の制作でいえば、化粧土のようです。
化粧土は、ボディーの成形に使用した土をドロドロの泥しょうにし、カオリンや顔料を加えたもの。ボディーと共土にするのは密着性を高めるからです。
化粧でボディーを装飾し、模様をつける伝統の技法は、日常の器で目にしますね。日本では「粉引き」,ヨーロッパでは「スリップウエア」です。
良質なエンコーベには成形用の良質な坏土が要ります。 「ドロ釉」は化粧土に媒溶成分の長石を混ぜ、釉薬にしたものです。見た目はマットな少しざらっとした感じながら、長石の働きで素地の吸水率を抑えています。 次回は釉薬と装飾での職人さんの工夫をお伝えします。(Muto)

乾式プレス成形

タイル工場のラインの始まりは大きなプレス機です。
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1平方㎝あたりに230㎏もの圧力が加わり、タイルの形が始まります。

タイルの成形は、顆粒状の原料を高圧でプレスする乾式成形です。 乾式の最大のメリットは、歪みを防ぐことでしょう。

水を含んだ柔らかい粘土で成形すると、外側と内側の乾燥具合の差でどちらかに引っ張られ、歪みが生じてしまいます。とくに真っ平らなタイルのような形状は、周りが切れたり反ったりしやすく、少しの歪みでも致命的です。

スペインなどヨーロッパでは、水を含んだ粘土で成形する手作りのタイルがあります。こちらはせっき質、いわゆる土物です。

湿気が多く、寒暖の四季のある日本では、カビや凍てて割れることを考慮すると、硬質な磁器質がやはりメインになります。

手作りのやきものはゆっくり乾燥する必要があります。時間がかかる上、乾燥具合によって形にバラつきが出る割合も高くなります。味わいがありますが、量産体制には向きません。 日本のJIS規格は吸水率を3%以下としています。乾式成形は、サイズや形の精度が均一なものです。
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石の面状にプレスされたタイルには、まだ四方にバリがあります。それがラインを通っていくとキレイにはぎ取られるさまは、見ていて気持ちが良いほどです。粉状でありながら、機械に吸い上げられて移動するようすは不思議です。

 ラインでは何カ所で検品があります。
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「青だけ」もそのひとつです。青色の溶液に成形したものを付けることで、ヒビ切れの有無を検品しています。

その後釉掛けへとラインは進んでいきます。いくつかの検品を経て、窯入れの前に乾燥庫でしっかり乾燥をさせ、いよいよ窯入れになるのです。                  (Muto)

循環型リサイクル

やきものの原料は、長石や珪石、蛙目、カオリンなどです。

地球上に気の遠くなるほど長い年月をかけて堆積した、土や石からなる天然資源なんですね。

土や石なのだから埋蔵量は無限のように錯覚しますが、不純物のない良質なものは限られています。

粘土分のカオリンは、化粧品のパウダーや胃腸薬など医薬品にも使われています。

医薬品?口にするもの?とびっくりですが、不純物のないカオリンはキレイです。

工業原料全体として考えると、採掘量は多いでしょう。

このカオリンも最近では輸入に頼らざるえない現状があります。

良質な土のとれる鉱山がある土地は、窯業産地として大昔から発展してきました。美濃もそうです。

そんなわけで、窯業においても資源の枯渇は無視できない課題です。
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加納の工場内には、リサイクル容器があちこちにあります。検品で外れたタイル破片と、成形不良の陶土屑を分別して入れています。
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外にはプールのような大型の容器が設置してあります。

埋めて捨てる最終処分ではなく、再生原料にしているのです。

地元の釉薬会社がこれを集め循環型リサイクルシステムを構築しています。

タイル破片は粉砕されてすり潰され、白いセルベンと呼ばれる再生原料になります。セルベンと陶土屑、純粋なバージン原料を調合して成形のための窯業原料に再生するのです。

いくつかの原料を調整して混ぜ合わせるほど、土の欠点を補い合い長所が出て、良くなるのは、「やきもの」の特質です。

釉掛けして焼成されていても、粘土として使えるのはなぜ? 釉薬屋さんに聞いてみたところ、細か~い粉末状にすり潰すため、影響がないんだそうです。

セルベンは7~8年前に美濃焼業界と岐阜県セラミック研究所が、バージン粘土と混ぜた再生坏土(RCL粘土)を作った運動によって、一般的にも認知されたのがきっかけだったと思います。

RCL粘土のセルベンの含有率は現在20%ですが、技術的には50%まで可能だといわれています。一度焼成した再生土なので、「強い。焼成温度も低くなるので燃料の消費を減らせる」という専門家もいます。

素焼きの陶片を粉砕した物をシャモットといいますが、そういえば、大物制作の時に混ぜると、歪みやワレが少なくなります。それと同じでしょう。セルベンを入れるとろくろも挽きやすくなります。

タイルの場合はどうでしょう? タイルの成形は粉末の陶土(=坏土)を油圧プレスで成形する乾式成形です。 リサイクル原料の成分表のひとつを見ると、セルベンは5%。焼成前の成形不良品や残土とセルベンを含む窯業廃土全体は57%で、バージン粘土は33%。

技術的にすぐれた原料ができています。
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再生坏土で製品化した大石面状のタイル

環境を考え、リサイクルに積極的に取り組んだ製品作りは不可欠です。(Muto)