タイル工場の敷地内で日に幾度となく見る風景です。
作っているのは外壁タイルなので、外光での色やテクスチャーの具合を試作タイルで見ています。求める色合いやテクスチャーをだすためには、このときの釉薬屋さんとの打ち合わせが重要です。
とくに、補修タイルで破片からの再現は、使っているであろう原料を経験から予測をたてます。どの傾向の基礎釉(釉薬の話その1参照)に、どの顔料をどれくらい、どんな金属を添付したら、元の破片や作りたい理想に近づくか?使う原料の方向性を釉薬屋さんに提案してみます。テストピースの試験を繰り返して、最終的に釉薬を決めます。 とても手間のかかる仕事ですが、経験による見当が早道でしょう。
志野の人間国宝・荒川豊蔵さんは岐阜県・可児の山奥で桃山時代の陶片を発見し、そこから試行錯誤のうえに「志野」を再現しました。やきものに携わる人は長年の経験から、原材料の見当をつけます。先人の残した一つの陶片から、再現する仕事はロマンを感じます。
再現した釉薬にさらに新しい経験が加えられ、革新的に伝統の技術が伝わっていくんですね。
補修用タイルの場合、時を経過した退色まで、現存する周りと合うように再現します。 しかし、こうして決まった釉薬をかければ、思い通りのタイルが量産できるわけではありません。2~3層に掛けるに、どこにどんなふうに釉薬をかければいいのか?
開発課長がコンプレッサーによる手吹きで釉薬をかけています。真上から釉薬がかかるように姿勢はまっすぐ、少しずつ移動します。量産ラインの機械を想定してるかのようです。分量を計算するため伝わる職人さんの工夫も見られます。
加納の現在80歳になる会長は現役の職人さんでもあります。永い職人としての経験と技術の工夫は伝わっています。
建物にも時代に沿った流行があります。過去の建物で多いのは、壁面を微妙なグラデーションで変化を持たせる「3色ミックス貼り」。これを再現するにはテスト用に、1色に最低2色の試作を作ったとしても、6種類の釉薬が必要になります。10現場あれば、日に60色のテストです。
微妙な釉薬の差はわずか、0.0□%の微量な添加顔料や金属で変わるので、的確な原料の指示が完成までの早道になります。
また、釉薬の色だけではなく、表面状の凸凹の形態で見た目の発色は変わります。軽石のような表面のショット面状というのがありますが、鉄粉などの斑点が沈み込んでしまうこともあり、加減が難しいものです。
いろいろなケースに対処するのは職人さんの経験あってのことでしょう。こうして理想の色合いになるまで、試験を繰り返し、釉薬の分量を計算し、量産のラインに移すことができるのです。
機械による生産ラインの釉掛け
(Muto)