Message
代表挨拶
株式会社加納は、1963年の創業以来、美濃焼の伝統と技術を継承しながら、 セラミックタイルの製造に取り組んでまいりました。
しかし、焼成にともなう環境負荷と向き合う中で、私たちは2022年、 国内での焼成タイルの自社生産を終了し、新たな挑戦として 「焼かないタイル、Terrawell」の開発に踏み出しました。 Terrawellは、製造時のCO₂を大幅に抑制し、空気中の二酸化炭素と反応して 硬化する、新しい時代の建材です。
現在は、地域の協力工場と連携しながら、環境素材の開発と循環型の ものづくりを進めています。廃番タイルの再現、特注タイルの造形、 廃材のアップサイクル──タイルという枠を超え、「素材」と「技術」で 未来をつくる企業として、進化を続けてまいります。
Story
火を、止めるまで
株式会社加納は、1963年、美濃焼の産地・多治見市笠原町で、内外装用磁器質タイルの メーカーとして創立されました。以来、この地で焼き物をつくり続けてきました。
2022年、私たちは窯の火を止めました。
一美濃の土から
美濃焼は、1300年以上の歴史を持つ、この地の陶磁器です。豊かな土壌と、受け継がれて きた技術。古田織部が茶の湯に持ち込んだ志野、黄瀬戸、そして織部焼。戦後は、荒川豊藏や 加藤卓男といった人間国宝が、伝統技法と近代技術を結び直しました。
1950年代、欧米でタイルの需要が高まります。美濃の陶磁器業者の一部が、その技術を タイル製造へ転じました。加納も、その流れの中にいました。品質とデザインで、とりわけ 米国向けの輸出で業績を伸ばした時代です。
二二度の衝撃、そして大量生産の時代
1971年のドルショック、1973年のオイルショック。急激な円高が日本製タイルの競争力を 奪い、燃料費の高騰が製造原価を押し上げました。輸出は激減しました。
私たちは国内市場へ舵を切ります。1980年代、マンション建設が急増しました。外装用 モザイクタイル「45二丁」——縦4.5cm、横9cmの小さなピース。扱いやすさと 低価格で、マンション建築に不可欠な素材となりました。大量生産設備を導入し、業界は第二の波に 乗りました。
しかしその成功は、別の問題を運んできました。
三窯という現実
磁器質タイルは、およそ1250度で、15〜20時間焼かれます。この温度を保つため、窯は 止められません。火を落とせるのは、正月、盆、連休——年に数えるほどです。
窯の熱効率は、多くの場合20〜30%にとどまります。生み出される熱の70〜80%が、使われ ないまま失われていく。その燃料は、化石燃料です。
そして価格。業界は競争に追われ、公正取引委員会の介入を受けるほどの安値に沈みました。 地元紙は「せんべいより安いタイル」と書きました。「ペンキを塗るよりマシだから、タイル でも貼っておけ」——そう言われることも、ありました。
四父の言葉
創業者である私の父、加納二郎は、88歳になっても毎朝早く工場へ出かけ、タイルの開発に 没頭していました。窯の熱と多治見の夏で、工場は灼熱になります。父は毎日、自分で アイスクリームを買ってきて、働く社員に配っていました。
90歳を迎える頃、父は体調を崩し、工場に姿を見せることが少なくなりました。
ある日、私はタイルの未来について尋ねました。父の答えは、思いがけないものでした。
「俺がタイルを始めた頃は、水よりも安い燃料と、廉価な人件費、そして固定相場制の為替に よる国際競争力。この3点セットで、儲かる商売ができた。でも今は、その要素が全部なく なって、儲かるどころか、環境に悪影響を与え、迷惑ばっかりかけている。もう、お前の代で 幕を引いてもいいよ」
そして、亡くなる数日前。意識が朦朧とする中で、私は父に告げました。
「焼くのをやめる。ごめん」
父は答えました。
「大丈夫。お前のやりたいようにやれ」
五火を止めて、その先へ
2022年、私たちは国内での焼成タイルの自社生産を終えました。
生産に携わっていた社員の多くは、他社へ移り、あるいは別の業界へ進みました。私たちは、 その変化を引き受けました。
しかし、焼き物を、タイルを、捨てたわけではありません。
マンションの大規模改修で必要になる、廃番タイルの再現。劣化したタイルを取り除き、 既存の色合いに近づけた新しいタイルを供給する。1250度で焼かれるタイルの色を再現する ことが、どれほど難しいか。窯を止めた今、協力窯元に製造を依頼していますが、長年培った タイル製造の知見が、そこで生きています。
そして、焼かずに固める建材、Terrawell。空気中の二酸化炭素と反応して硬化する、 ミネラル建材です。
六これから
私たちの取り組みは、地球環境と地域社会へ、小さな貢献をしたいという思いから始まり ました。小さな会社でも、少しずつ、確実に変えられることがある。そう実感しています。
タイルに限らず、素材の可能性を探り続けます。
そして、いつも私たちのそばにあったタイルへの感謝を、忘れずに。
株式会社加納
代表取締役 加納 芳喜
Values
私たちの考え方
加納の仕事は、三つの向き合い方でできています。
ひとつは、受け継ぐこと。生産が終わったタイルを再現し、過去の建物を次の世代へ手渡します。美濃焼の産地を絶やさないために。
ひとつは、変えること。火を使わず、空気と時間で固める。焼成をやめることで、つくるときの環境負荷そのものを建材に組み込み直しています。
ひとつは、巡らせること。捨てられるはずだった廃材を固め、もう一度、建築の表情に変える。産地のなかで素材が循環する仕組みをつくります。
受け継ぎ、変え、巡らせる。この三つを、2022年を基準年に2030年までに温室効果ガスを42%削減するSBT目標が、全社の背骨として支えています。
Company Profile
会社概要
- 社名
- 株式会社加納
- 創業
- 1963年
- 代表取締役
- 加納 芳喜
- 所在地
- 岐阜県多治見市笠原町1647-3
- 事業内容
- 環境建材(Terrawell)の開発・製造/廃番タイルの再現・特注タイルの受注生産/廃材アップサイクル建材/建材の供給